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SPECIAL

Patrick Allan Torpey 一周忌によせて

パトリック・アラン・トーピー(1953-2018)追悼盤

 パット・トーピーが亡くなってから1年の月日が流れた。1月の半ばくらいから、人生最後の数週間、彼は何を考えていたのだろう。あんなにアクティヴだった男から自由を奪ったパーキンソン病を抱え、どんな思いだったのか、ずっと考えるようになっていた。歩いている時、通勤で電車に乗っている最中、家族と食事をとっている時、彼のことを突然思い出していた。

 忘れることはありえない。忘れるつもりはないし、忘れられるはずがない。パット・トーピーとの思い出は10年に満たない月日の中でもいっぱい残っているし、MR. BIGのメンバーたちはその何千、何万倍もの思い出を抱えている。現世での彼の人生は終わってしまったが、パットはドラマーでミュージシャン、それも幸運なことに成功を収めたバンドに在籍し、普通の人では考えられないくらい多くの人々の心に思い出を残している。そして数多くの質の高い音楽を残してくれている。忘れないこと、その音楽に耳を傾け、僕やあなたが大事にしている彼との思い出を何度でもリピートすること、それを続けていくことが大事なんだと思う。人によって、それはまだ辛いことなのかもしれない。でも僕は彼の一周忌に際し、良いことも悪いことも思い出はどんどん陽の当たるところに出していこうと思う。陽の当たらない記憶の隅に置いておく人じゃないし。MR. BIG一番のナイスガイにふさわしくその思い出を陽の当たる場所に引っ張り出そう。その音楽を鳴らし続けようと強く思う。

 最初に思い出したのは2011年ジャパン・ツアー初日。日本公演100回目の記念公演となった大阪城ホールでのこと。楽屋からステージに向かうメンバーの姿は『ロウ・ライク・スシ 100』のデラックス・エディションに付いているドキュメンタリーDVDにも映っているが、通路を歩いていくシーンの後、ステージでドラム・スツールに向かう直前、なんとも言えない不安そうな顔になっていた。その直前の『ライヴ・フロム・ザ・リヴィング・ルーム』はパットがドラム演奏できない状態だったため、急遽アコースティック・ギグに変更された経緯があり、後にして思えばそれがパーキンソン病発症の初期段階だったのだろう。それもあって、あの大阪城ホールのツアー初日は無事に叩ききることができるのか不安もあったのだと思う。カブキ・ドロップが落ち演奏が始まる瞬間を撮影するため僕はパットのすぐ後ろにいたのだが、オープニングの「アンダートウ」が始まった瞬間にパットのスイッチが入ったのが分かった。根っからのミュージシャンだよね。観客がドッと沸いた瞬間に不安なんか吹っ飛んで、いつものパット・トーピーが戻ってきたのがはっきり感じ取れた。彼にしてみればやりきるしかないという覚悟だったのかもしれないが、間違いなくあの演奏開始の瞬間に彼が発する「気」が変わったのを感じた。不安が吹っ飛び一気に自信がみなぎる強いオーラが確実にあの瞬間吹き出していた。

 2011年ツアーは全体を通して見ると、パット、腕のコントロールにパーキンソン病の影がすでに忍び寄っていて、スネアを打ち下ろした手が止まらず、わずかにホップして小さく2度打ちになる場面もあったけど、ステージでドラム・スツールに座るパットの姿を見ることのできた最後のツアーで思い出は尽きない。特に「テイク・カヴァー」を叩く姿は好きだったなぁ。秋田公演でちょうど「テイク・カヴァー」を演奏している時、彼の後ろでビデオを撮っていたのだけど、あの時の姿は今も鮮明に思い出すことができる。2014年ツアー以降MR. BIGのドラマーになったマット・スターをとやかく言うつもりは毛頭ないけど、「テイク・カヴァー」はパット・トーピーじゃないとダメだと思った。普段何気に聴いていたけど、あの曲のドラム・パターンを生み出すまでには相当の努力があったのだろう。あのイントロを聴くたびにパット・トーピーのプロのドラマーとしてのプライドを感じるのだ。

 2011年ツアーの頃はまだ、彼も元気だったからツアー中よく一緒に出歩いた。ビリーとパットはいつもセットだった。母国アメリカの政治に対する考え方は真っ向から対立していて、移動中よく政治談議でやりあっていたけど、ビリーが言う通り、本当に兄弟みたいな仲だった。前にも書いたけど、大阪100回公演の直後の金沢での焼肉店ボヤ騒ぎも笑える思い出だった。地元のプロモーターから紹介された焼肉店にビリー&パット、僕、ウイリアム・ヘイムスの4人で行って、注文を済ませ、ドリンクが来たので「100回公演成功を祝して乾杯!」となった瞬間、隣のテーブルを見るとロースターから天井に達するくらいの勢いで火柱が上がっている。店員が飛んできて消そうとするも火の勢いは収まらず、そのうち店内に煙が充満してきた。こりゃやばいということで、店の外に避難したのだが、よく見りゃパット、自分が頼んだウーロン茶の入ったジョッキ持ったまま。やばいから逃げようってくらいの火の勢いだからちょっとパニックではあったのだが、ジョッキは置いてくるだろう、普通。結局、大騒ぎとなり食事どころではなくなったため、近くの別の焼肉店に場所替え。ボヤを出した店より間違いなく2ランクは上の高級店。食事を楽しみ語ったコメントがまた良い。「いやぁ、ボヤのおかげでディナーがアップグレードしちゃったなぁ。ところでさっきの店飲み物代払った?」払ってないと答えると「まずいなぁ、MR. BIG食い逃げって新聞載っちゃうよ」。載るわけはないし、ビビってジョッキ手にしたまま避難したのは誰だよ、って話なんだけどね。

 細かい気配りのきく人でもあった。エリック・マーティン・オーヴァー・ジャパンで来日してくれた時のこと。大阪での出来事。大阪公演に集まってくれたファンはそれなりに楽しんでくれたはずだけど、エリックは大阪公演で入れ込んでいた分、ちょっとすべって(エリックの名誉のために言っておくとすべったのはエリックじゃない)もう、ショウの後半、顔がどんどん曇ってくるのがわかったのだが、案の定、ショウが終わると涙流して悔しがる。まぁ、原因はリハーサル不足にあったんだけど、それでも良い雰囲気じゃないことはたしかだったので、パットに頼んで、今晩はみんなで食事に出よう。悪いけどエリック引っ張り出してくれ(エリックくん基本ツアー中は引きこもり派)ということで、見事そのリクエストに答えてくれたばかりか、とにかく場の盛り上げに一役買ってくれたのだ。MR. BIGとは比べものにならない超低予算ツアーだったため、大阪ではお馴染みの大衆中華料理店での宴会だったのだが、ここでパットが突然、「それでは、ここボーイズだけの集まりだから、みんな包み隠さず自分の初体験のことを告白しようぜ」と言い出し、突然彼の初体験の話を始めた。故人の名誉のため、詳細は伏せるが、パット・トーピー少年のリビドーはかくも奔放なものであったかという、リアルな話であったね。言い出したパットが告白したため、みんなそれぞれ告白せざるをえず、話が進むたびに「バカだねぇ」とか「ありえない」とか爆笑が続くうちパットが「じゃぁ、Tamiは?」ってことになり、僕は「羊」と答えた。するとパットが「へ?」という感じなり「羊って、あの羊?」と聞き返すので「そう、あの羊」と答えると、どうも彼のツボに入ったらしく、椅子から転げ落ちそうなくらい、それこそ涙を流さんばかりの大爆笑。「まじか?」と尋ねるので「うそだよ。イギリスのバンド連中(多分、ワイルドハーツ)に聞いたウェールズの連中をからかう差別ネタ。ウェールズは羊だらけだからって話だよ」と種明かしをした後もパット、ゲラゲラ笑っていたなぁ。

 彼のことを思い出すとあの笑い顔がまず浮かんでくる。ウイリアム・ヘイムス曰く「ニカっと笑う」あの笑顔だ。ほんと、永遠のナイスガイだ。これからも君のことを思い出すよ。君と一緒に仕事するのは楽しかったし、君の作った音楽も素晴らしかったし、これからも変わらず素晴らしい。パトリック・アラン・トーピー。君の思い出は色褪せないしこれからも輝き続ける。

で、お〜い!見てるかパット、また、ろくでもないこと書かれているぞ!

2019年2月6日 Atsushi “Tami” Fukatami

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