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クリムゾン・キングの宮殿 50thアニヴァーサリー・エディション解説
クリムゾン・キングの宮殿 50thアニヴァーサリー・エディション仕様解説

 『宮殿 50thアニヴァーサリー』パッケージの特徴は『宮殿40th』の時と異なり、CD部分が大幅に拡大され3枚組となっていること。『宮殿40th』は40thアニヴァーサリー・ミックスにボーナス・トラックを追加したものだったので、遥かにヴァラエティに富んだ編成となっている。

3枚のCDは以下のように構成されている。日本盤は再生効率向上を目的としてK2HDマスタリング・システム、HQCDフォーマットを採用している。

収録曲

◇CD-1
2019 ステレオ・ミックス & インストゥルメンタル・ミックス
1 21世紀のスキッツォイド・マン
2 風に語りて
3 エピタフ
4 ムーンチャイルド
5 クリムゾン・キングの宮殿
インストゥルメンタル・ミックス
6 21世紀のスキッツォイド・マン
7 風に語りて
8 エピタフ
9 ムーンチャイルド(エディット)
10 クリムゾン・キングの宮殿
スティーヴン・ウイルソンによる50thアニヴァーサリー・ミックス+アルバム収録曲全曲のインストゥルメンタル・ミックス。
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◇CD-2
オルタネート・アルバム, エクスパンデッド・エディション
1 ウィンド・セッション(2019 ステレオ・ミックス)
2 21世紀のスキッツォイド・マン(1969年モーガン・スタジオ・レコーディングを元にジャッコ・ジャクジクとメル・コリンズを加えて)
3 風に語りて(オルタネート2019 ミックス)
4 風に語りて(デュオ・ヴァージョン, 全長版マスター, 2019 ミックス)
5 エピタフ(アイソレイテッド・ヴォーカル, 2019 ミックス)
6 エピタフ(オルタネート・テイク, 2019 ミックス)
7 ムーンチャイルド(テイク1, 2019 ミックス)
8 クリムゾン・キングの宮殿(1969年6月テイク, 2019 ミックス)
9 21世紀のスキッツォイド・マン(トリオ・ヴァージョン, 2019 ミックス)

スティーヴン・ウイルソン・ミックスによる『オルタネート版クリムゾン・キングの宮殿:2019年拡張版』。基本、『宮殿40th』のボックス・エディション等で過去に公開されているヴァージョンではあるが、タイトルにもあるように2019年新規ミックス版となっている。トラック4「風に語りて」のデュオ・ヴァージョンは『宮殿40th』では5分弱だったが、今回は7:17のフル・ヴァージョンとなっている。

 例外はトラック2「21st Century Schizoid Man(Morgan studios June 1969 take with Greg Lake vox overdubs from Wessex August 1969 & Mel Collins/Jakko Jakszyk August 2019 overdubs)」妙に長いタイトルだが「スキッツォイド・マン」のモーガン・スタジオでのインスト・テイクは『宮殿40th』のボックスで公開されていたが、今回はここにウェッセクス・スタジオでのグレッグ・レイクのヴォーカル・パートを乗せ2019年8月にメル・コリンズとジャッコ・ジャクジクがホーン、ギターをオーヴァーダブで加えたものが採用されている。またトラック5「エピタフ」は最近流行りのフリー・ソフトAudacity等を使用し有名曲のヴォーカル・パートだけを取り出した擬似アカペラ・ヴァージョンがYouTube等で勝手に公開されているが、この「エピタフ」も何者かが無許可で制作しネットで公開されたことに怒ったDGMが、オリジナルのマスター・テープから制作した正規の擬似アカペラ・ヴァージョンとなっている。

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◇CD-3
オリジナル・マスター・エディション, エクスパンデッド
1 21世紀のスキッツォイド・マン
2 風に語りて
3 エピタフ
4 ムーンチャイルド
5 クリムゾン・キングの宮殿
アディショナル・マテリアル
6 21世紀のスキッツォイド・マン(モーガン・スタジオ・インストゥルメンタル・テイク, 1969)
7 風に語りて(スタジオ・ラン・スルー, 2019ミックス)
8 エピタフ(バッキング・トラック, 2019ミックス)
9 クリムゾン・キングの宮殿(パート1)
10 クリムゾン・キングの宮殿(パート2)(1969年, モノ・シングル A/Bサイド)
サイモン・ヘイワースによるマスタリングが施されたオリジナル・マスター・エディションにCD-2に収まりきらなかったオルターネート・トラックスを収録。CD-2トラック2の元トラックであるトラック6は従来のものをそのまま収録したようだが、トラック7、8はスティーヴン・ウイルソンによる2019ミックスで収録されている。トラック9、10は「クリムゾン・キングの宮殿」シングル・エディットA、B面を収録したもの。
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◇Blu-ray
ブルーレイ・オーディオ仕様ではなく通常のブルーレイ・フォーマット。よって、家庭用ブルーレイ・プレイヤー、PC等に外付けのブルーレイ対応ドライヴでも再生可能。ブルーレイ・オーディオだとそのフォーマットに対応した機種のみ再生可能となってしまうが、本ブルーレイ・ディスクはブルーレイ対応機種であれば再生可能。

 これを読んでいただいている方なら分かると思うが、本ブルーレイは映像ブルーレイではなく音声収録(ボーナス・マテリアルとして)「スキッツォイド・マン」のハイドパーク公演の映像クリップを収録している)。

 収録内容は基本、CD3枚の収録曲全て+ブルーレイのみの2019年版5.1chサラウンド・ミックス+映像クリップ。収録フォーマットはDTS-HD MA 5.1 & LPCM 5.1/DTS-HD MA Stereo & LPCM 24/96となっている。

スティーヴン・ウイルソンによる50thアニヴァーサリー・ミックスの特徴は?

 40thアニヴァーサリー以来10年ぶりとなる『クリムゾン・キングの宮殿』の最新ミックスの特徴は一言で言うならば「原点回帰」。1969年に鳴り響いたサウンドを丁寧なクリーン・アップとレストア作業で再現したものと言っていいかと思う。

新規ミックスのブームが生まれた背景にはDVD、DVDオーディオの登場による5.1chサラウンドをはじめとするマルチ・チャンネル化が大きく影響している。このマルチ・チャンネル・ミックスと並行する形で新規ステレオ・ミックスも登場してきた。

90年代以降次々と制作された著名アーティストの代表作のオリジナル・マルチトラック・テープからの新規ミックスは時代ごとのトレンドがあったように思う。初期はマルチ・チャンネル・ミックスという新たな表現手法に引っ張られ、新たなアイデアを加えた派手で盛った印象のミックスが流行ったが、2010年あたりから徐々にオリジナルを尊重しクリーン・アップとレストア作業に特化した制作ポリシーにシフトし始め、更なるテクノロジーの進化も伴いこの傾向は新規ミックス制作のトレンドとなってきている。

 スティーヴン・ウイルソンは新規ステレオ・ミックスの分野においては早くからクリーン・アップとレストア作業の重要性に着目。ひとつにはマルチ・トラックに残された各トラックの音源をクリーン・アップしていくことで、彼が手がけたものがオリジナルとなるマルチ・チャンネル・ミックスの完成度をより高めることができるという利点があった故なのだが、スティーヴン・ウイルソン・スタイルはアーティスト、音楽ファンの両方から支持を受けひとつのトレンドとなり今日に至っている。

 『クリムゾン・キングの宮殿』50thアニヴァーサリー・ステレオ・ミックスはそのスティーヴン・ウイルソン・スタイルの集大成であり、到達点と言って良い素晴らしい仕上がりを見せている。同じ1969年に発表され先頃2019年ニュー・ミックスが発売されたTHE BEATLES『アビー・ロード』にも感じたことだが、オリジナル録音当時のテクノロジーではどうしても歪みがでたり音が淀んだりしていた部分を徹底的に磨きあげたという印象があったが、この『クリムゾン・キングの宮殿』50thも同様の印象なのだ。当時の発売媒体であった30cmLPにするためにマスタリングされカッティングされる前、ウェッセクス・スタジオで5人のメンバーが最終確認のため試聴した2chミックスダウン・マスターに限りなく近づいたそんな印象を受けるミックスなのである。

 ブルーレイに収録された5.1chミックスの方にもこの制作意図は反映されており、時にかなりユニークな5.1chミックスを作り出すこともあるスティーヴン・ウイルソンだが、この新規5.1chミックスから感じるテーマは『空気感』。奇をてらった音像ではなく、まるで1969年のレコーディング・ブースの中央に陣取り聴いているかのような印象を受ける。

 物理・科学面では未だ可能とならないタイム・トリップだが、音楽の世界では見事に『時代の音』を作り上げ、リスナーを『クリムゾン・キングの宮殿』誕生の瞬間へと誘うのである。

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しかしながら凄さが伝わりにくい50thアニヴァーサリー・ミックス。その欠点と利点とは?

 新規ミックスだから派手に聴こえるとは限らない。前項でも書いたように最近のトレンドは派手から遠ざかりつつある。『クリムゾン・キングの宮殿』50thアニヴァーサリー・エディションを聴くと、CD-1の50thアニヴァーサリー・ミックスよりCD-3オリジナル・マスター・エディション音源のほうが鳴りが良く派手に聴こえる。ただ聴き比べればその音のクリアーさの違いは歴然なのが判る。

 50thアニヴァーサリー・ミックスでは従来の『クリムゾン・キングの宮殿』にあった歪み・淀み・くすみが可能な限り取り除かれている。極力ストレスを取り去ったマスターともいえる。これまでのマスターでも気づいていたが、フリップのギターの定位が微妙に動く箇所が驚くほどクリアーに聴こえたり、様々な「!」ポイントが見つかるミックスなのだが、一方では当時のレコーディングにおける8トラック・マルチの限界も今回のミックスでははっきりとわかってしまう。特にCD-1後半のインストゥルメンタル・ミックスではこれだけのサウンドを8chにまとめ上げるためドラムのサウンドがかなり犠牲になっていることがはっきりと見て取れる。またトラック数に余裕があった「ムーン・チャイルド」とシンフォニック・ロックの極北とも言える「クリムゾン・キングの宮殿」では音質面で大きな差がついていることがはっきりと判ってしまうのだ。レコーディングの裏事情すら見えてしまうミックスなのである。

 こうした明確なミックスの制作ポリシーは、レコーディング環境の弱点をさらけ出す一方、聴く者に新たな探求の糸口を与えてくれる。たったの8chにこの音世界を収めるためにメンバーがどれだけ腐心したのか、当時、破竹の勢いだったMOODY BLUESサウンドの生命線といわれたプロデューサー、トニー・クラークを解雇し自分たちでプロデュースするに至った経緯等、クリアーな音像の向こうに1969年夏の5人のメンバーが考えたことが見え隠れするような印象さえ受けるのだ。

 派手なミックスではないが存在するすべての『クリムゾン・キングの宮殿』の中で最も多くのことを聴く者に語りかけるミックスだと思う。

『輝き』のミックスを余すところなく体験するために

 DGMはこの『クリムゾン・キングの宮殿』50thアニヴァーサリー・エディションのメインはブルーレイでありCDはサブと考えているようだ。いつものことではあるが、CDプレスにはほとんど気を使わない。ブルーレイは確かにハイレゾ時代には訴求力の強い商品だとは思うが、本当にそこまでファンはブルーレイを求めているのか多少疑問に思う。本当にハイレゾの天下であるなら音楽ブルーレイの市場は拡大していくはずなのだが、皮膚感覚ではまったくそんな傾向は感じられない。

 日本のロック・ファン、音楽ファン、オーディオ・マニアはアナログ・マニア同様、自分だけのCD再生に対するドクトリンを持っている人が多いと思う。ここ日本において、CDは決しておまけではないのだ。

 今回もK2HDマスタリング、HQCDフォーマットにこだわったのは、今回のニュー・ステレオ・ミックスこそ、この日本独自の選択が活きると確信しているからなのだ。

 世界のどこよりも良い音で、この歴史的アニヴァーサリー・ミックスをここ日本で鳴らしていただきたいと願っている。

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WEB SHOP INFORMATION
 ポール・ギルバート/PG-30 Zepp Tokyo 2016.9.26 
 キング・クリムゾン オン(アンド・オフ)ザ・ロード 40thアニバーサリー・ボックス・日本アセンブル盤
ジョー・エリオット&ダウン・アンド・アウツ 「
ザ・ファーザー・アドベンチャーズ・オブ〜アーティスト:ダウン・アンド・アウツ」 太っ腹の全買特典あり。
Web盤
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